令和5年4月17日 IER特別セミナーを開催しました。<べアトリス・ガニェール博士、ジャン・マルク・ボンゾム博士>

日時2023年4月17日(月)15:00-16:30
場所環境放射能研究所本棟6F大会議室/オンライン(Zoom)
発表者ベアトリス・ガニェール IRSN上級研究員、ジャン・マルク・ボンゾム IRSN上級研究員(発表順)
演題Ongoing projects in radioecology between France (IRSN, INRAE, CNRS) and Japan (IER, Fukushima University): BEERAD, BEECONECT and RINSHO

IRSNの上級研究員である、ベアトリス・ガニェール博士とジャン・マルク・ボンゾム博士は、フランス(IRSN、INRAE、CNRS)と日本(IER、福島大学)が共同で進めている放射生態学プロジェクト:BEERAD、BEECONECT、RINSHOについて発表を行いました。オンライン聴講を含め研究者、大学院生ら31名が参加しました。

べアトリス・ガニェール上級研究員

ガニェール上級研究員率いる共同研究BEERADプロジェクトでは、実験室と野外実験の2つのアプローチにより、γ線などの電離放射線がミツバチに及ぼす影響を研究しています。

2022年、ミツバチの病原体として知られるノゼマ・セラナエのミツバチへの感染に電離放射線が影響を及ぼす可能性について、線量率や病原体への感染の有無等の条件を変えながら実験室実験を行いました。その結果、放射線照射と感染という2つのストレスを受けたミツバチは、対照群と比較して死亡率が高いことが明らかになりました。

野外では、被曝線量率が異なる地域に選定した6サイト(バックグラウンドに近い線量率(0.15~0.30μSv/h)、低線量率(4~8μSv/h)、高線量率(18~30μSv/h)の各地域に2サイトずつ)に、2023年4月、ミツバチの巣箱を6個ずつ設置し、それぞれに4つの積算線量計を設置しました。半数の巣箱には、温湿度・重量センサーと巣門を出入りするミツバチの個体数を計数する装置を取り付けており、巣箱の状態をリアルタイムで監視しています。7月と10月には、ミツバチを採取して、いくつかのパラメータにより電離放射線によるミツバチへの影響を評価します。ハチミツは定期的に採取し、放射能汚染を測定します。2024年も野外実験を継続し、実験終了時には、女王蜂の精嚢に保存されている精子の生存率など、いくつかのパラメータを評価します。 ミツバチをはじめとする花粉媒介昆虫は、植物の生物多様性に大きく関わっています。BEERADプロジェクトにより、電離放射線が花粉媒介昆虫や受粉に与える影響をより包括的に予測できるようになるかもしれません。

ジャン・マルク・ボンゾム上級研究員

ボンゾム上級研究員は、BEECONECTプロジェクトとRINSHOプロジェクトの研究内容を発表しました。

BEECONECTプロジェクトでは、放射能汚染がミツバチをはじめとする花粉媒介昆虫の認知能力(学習・記憶)に与える影響を研究しています。ミツバチをはじめとする多くの花粉媒介昆虫は、花の色や香りを採餌時に学習し、その情報をその後の採餌活動に活用することが知られています。これらの能力は、いくつかの環境ストレス要因(例:殺虫剤、重金属等)によって阻害されることがあります。ボンゾム上級研究員は、マチュ・リオロ博士が率いるフランス国立科学研究センター(CNRS)の研究チームと共同で、ミツバチなどの花粉媒介昆虫の認知能力を自動的に測定する装置を開発しています。第一段階として、BEERADのメンバーが選んだバックグラウンド、低線量率、高線量率の各サイトに、この自動測定器を設置する予定です。また、福島県内の他の放射能汚染地でも、この自動測定器を用いて多くの花粉媒介昆虫の認知能力を測定する予定です。 RINSHOプロジェクトは、福島県内の森林において、土壌の生物多様性(原核生物と真核生物)とそれに関連する2つの機能的プロセス(有機物の分解と土壌の生物撹乱)に対する放射能汚染の影響を調査することを目的としています。有機物の分解とそれに続く再利用は、土壌の肥沃度と生物多様性の維持に不可欠です。また、マクロファウナ(ミミズ、アリ、一部の土壌性甲虫)は、生物撹乱の重要な担い手です。ミミズが掘った穴は、水と空気の土壌への浸透を促進し、微生物の多様性を高めるのに役立っています。RINSHOプロジェクトでは、土壌生物多様性、有機物分解、それに土壌生物による攪乱に対する放射能汚染の影響に焦点を当てた研究を実施する予定です。

INRAEのフィリップ・リュック・ビルズンス博士