令和3年9月27日 第4回IERセミナーを開催しました。<難波所長、林准教授>
日時
2021年9月27日(月)14:00~15:45
発表者
難波 謙二 所長
林 薫平 准教授(食農学類)
演題
Lifting of Evacuation Order(難波)
A Regulatory Scientific Approach to the Post-disaster Recovery Issues of Fukushima’s Marine Fisheries(林)
環境放射能研究所(IER)では、所属教員同士の交流、研究内容の研鑽を目的に、所属教員による研究成果報告会「IERセミナー」を定期的に行っています。
9月27日に開催した令和3年度第4回IERセミナーでは、環境放射能研究所所長の難波謙二教授、福島大学食農学類の林薫平准教授が発表を行い、オンライン聴講を含め、教職員、大学院生ら計15名が参加しました。
難波教授の発表では、原発事故後10年間の福島県浜通りの各市町村における避難指示区域解除の経緯が、様々なデータとともに紹介されました。避難指示解除の見直しは、 1)年間積算線量20ミリシーベルト以下、2)基本インフラの復旧や除染作業の十分な進捗、 3)自治体や町民との十分な協議を要件として各市町村で段階的に行われ、令和2年3月には、帰還困難区域を除く全ての地域で避難指示が解除されました。浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、飯舘村、葛尾村、南相馬市に残る 帰還困難区域の一部は平成29〜30年に特定復興再生拠点区域(拠点区域)の認定を受け、除染や整備が進められ、令和4~5年度には避難指示が解除される計画です。飯舘村の帰還困難区域では除染で発生した除去土壌の再生利用に向けた試験的取り組みも行われています。 また、拠点区域外、いわゆる白地地区についても帰還希望者が帰還できるよう、2020年代の避難指示解除に向けた取組を行うという政府方針が今年8月末に示されたことが紹介されました。
林准教授は、農林資源経済論・漁業経済論を専門とし、様々な分野において福島県の復興に取り組んでいます。本発表では、漁業復興に向けた政策科学(regulatory science)的アプローチについて話しました。 福島県の沿岸漁業(沖合底引き網漁業を含む)は、原発事故直後、汚染水の海洋放出により高濃度汚染サンプルが検出されたため事業自粛を余儀なくされました。 しかし、その後のデータ解析により、海水魚の放射性セシウム濃度は急速に減少し、魚種や生息環境によって減少が顕著になることが確認されました。林准教授は、こうした 1)データ解析をもとに、2)試験操業等の段階的なステップに向けて、3)福島県漁連や漁業関係者を核とするマルチステークホルダーによる地域漁業復興協議会(漁協)を組織し、 4)協議会独自の出荷開始・出荷制限・制限解除(出荷再開)のルールを明確に取り決めてそれを原発の状況や社会的環境に流されずに適用していくなど、多面的なアプローチで福島県の漁業復興に参与してきました。 ALPS処理水の海洋放出や廃炉の問題についても、上記アプローチも活用した取り組みを続けています。
質疑応答では、避難指示解除の積算線量の基準や除染廃棄物の貯蔵と再生利用の動向が帰還困難区域の今後の除染の計画とリンクするかどうか(以上、難波報告に対して)、 水産物を含む食品中の放射性セシウムの値に関する日本と諸外国の基準値の違いの背景や原発近傍から比較的高い濃度の魚が今後も出てきうることがどのようなリスク要因になるかなどについて(以上、林報告に対して)多くの質問が挙げられ、活発な議論が交わされました。