令和5年1月30日 第9回IERセミナーを開催しました。<石庭特任講師、コノプリョフ特任教授>

日時

2023年1月30日 14:00~15:00

発表者

石庭 寛子 特任講師
アレクセイ・コノプリョフ 特任教授(発表順)

演題

Genomic analysis of radiation effects on field mice in the difficult-to-return zone.(石庭)
Seasonal variations of radiocesium (r-Cs) in aquatic environment and their mechanisms.(コノプリョフ)

環境放射能研究所(IER)では、所属研究者同士の交流、研究活動の推進を目的に、研究成果報告会「IERセミナー」を定期的に行っています。

1月30日(月)に開催した令和4年度の第9回IERセミナーでは、石庭寛子特任講師とアレクセイ・コノプリョフ特任教授が発表を行いました。オンライン聴講を含め研究者、大学院生ら29名が参加しました。

最初に石庭特任講師が発表しました。放射線はDNAの突然変異を引き起こします。突然変異の発生場所は規則性が無くランダムであるとされているため、放射線が生物のDNAに与える影響を真に評価するためには全ゲノムを調べる必要がありますが、費用がかかり、全てを分析することは困難です。ゲノムサイズは動物の種類によって異なり、また、野生生物のゲノム配列情報は断片状で統合されておらず取り扱いが難しいなど、データ解析上の問題もあります。
帰還困難区域に生息する野ネズミの放射線影響を明らかにするために、生物の生存等に関わる機能を有する遺伝子領域のみをゲノム上から抽出し解析する手法を検討し、セミナーではその発表を行いました。

  石庭寛子特任講師が発表している様子
アレクセイ・コノプリョフ特任教授が発表している様子

コノプリョフ特任教授は、水環境における放射性セシウム(r-Cs)の季節的変動とそのメカニズムについて講演しました。コノプリョフ特任教授は、チョルノービリ原子力発電所の冷却池、チョルノービリ立入禁止区域の湖Glubokoe、ドイツの貧栄養湖Vortsee、大熊の貯水池、阿武隈川、Nakanishi and Sakuma (2019)によるFDNPP汚染地域の他の河川データについての研究結果を紹介しました。
すべての水域で、溶存r-Csの濃度は、基本的に冬季よりも夏季に高いことがわかりました。水域における溶存Csの規則的な季節変動には、2つの基本的なメカニズムが存在することが示唆されました。1つ目は水温上昇による脱着速度の増加、2つ目は無酸素状態での有機物分解によるアンモニウムの発生です。
福島県内の河川は、浅く速い流れのものが多く、アンモニウム濃度は通常無視できるほどの低さです。これらの河川では、溶存r-Csの季節性の主な要因は、r-Cs脱着の温度依存性です。無酸素状態の池、湖、ダム貯水池の停滞した成層水では、r-Csの挙動におけるアンモニウムの役割は、水温の役割と同等か、それよりも優位になる可能性もあります。

発表後には研究者による意見交換が行われ、活発な議論が交わされました。

         質疑応答の様子
         質疑応答の様子