チェルノブイリと福島における汚染流域からの中長期的な放射性セシウムの流出

特任教授 アレクセイ コノプリョフ

発表概要

環境放射能研究所(IER)は、ウクライナ水文気象学研究所、ベラルーシ保健省、ベラルーシ大学サハロフ国際環境研究所と協力して、チェルノブイリと福島の汚染流域における放射性セシウムの中長期的流出について調査・比較研究をしています。本研究は、SATREPSプログラム(JST・JICA、課題番号:JPMJSA1603)と科学研究費基盤研究B(JSPS、課題番号:18H03389)の支援を受けて行われているものです。

今回、IERの アレクセイ コノプリョフ特任教授らが参加する日本、ウクライナ、ベラルーシの共同研究チームは、汚染流域からの放射性核種の流出量を予測する「半経験的拡散モデル」を新たに開発・提案するとともに、チェルノブイリと福島の両汚染地域にある河川(図1)について、利用可能なデータを用いてモデルの検証を行いました。

Typical Scots pine forest in Chernobyl.
図1. サンプリング地点

(a)UNSCEAR (2000)によるセシウム137沈着量マップをもとに作成したプリピャチ川(①Chernobyl、②Mozyr)、ドニプロ川(③Nedanchichi、④Rechitsa)の位置図

(b)中西・佐久間(2019)によるセシウム137沈着量マップをもとに作成した請戸川(⑤)、太田川(⑥)の位置図

モデルを用いた計算により、両地域における放射性核種の流出について異なる特徴が示され、さらに、長期的な傾向を予想することに成功しました(図2)。溶存態放射性セシウムの流出に関する定量的な特徴としては、福島の河川流域における流出比(注1)はチェルノブイリと比較して少なくとも1桁以上少ないことが示されました。この主な理由としては、粒子状物質(注2)に対する放射性セシウムの親和性が異なることが挙げられます。

Sampling a wood core for analysis of the radionuclide distributions in the tree trunk.
図2. 半経験的拡散モデルにより計算された、チェルノブイリと福島の汚染地域の代表的な流域における溶存態放射性セシウム流出比の経時的変化

研究の意義・ポイント

半経験的拡散モデルにより、チェルノブイリと福島における放射性セシウム流出の経時的傾向を示すことに成功しました。この結果は科学的に興味深いだけでなく、原発事故後の放射性セシウムの流出予想にモデルの活用が有効であることが示されたという点で、今後、実用的な価値も持つ可能性があります。

用語解説

(注1) dissolved radiocesium wash-off ratio
溶存態放射性セシウム濃度(Bq m-3)を流域内における放射性セシウムの平均沈着量(Bq m-2)で割った値を示します。

(注2) particulate matter
マイクロメートルの大きさの固体粒子のことで、ここでは微細な土壌粒子を差します。

論文情報

論文はエルゼビア社が発行する学術誌Water Researchウェブサイトに2020年10月12日にオンライン公開され、2021年1月発行の第188号に掲載予定です。

雑誌名“Water Research”
論文タイトルMid- to long-term radiocesium wash-off from contaminated catchments at Chernobyl and Fukushima
URLhttps://doi.org/10.1016/j.watres.2020.116514
著者Alexei Konoplev1, Volodymyr Kanivets2, Оlga Zhukova3, Мaria Germenchuk4, Hrigoryi Derkach2
1 福島大学環境放射能研究所
2 Ukrainian Hydrometeorological Institute
3 Scientific-Practical Center of Hygiene, Ministry of Health of the Republic Belarus
4 International Sakharov Environmental Institute of Belarusian State University