魚類の放射性ストロンチウムを低減化させる対策の検証

特別研究学生 ポリーナ・パブレンコ、准教授 和田敏裕、教授 ヴァシル・ヨシェンコ

発表概要

ウクライナ国立生命環境科学大学農業放射線学研究所の研究者らは、福島大学環境放射能研究所の研究者らの協力を得て、淡水魚の放射性ストロンチウム(90Sr)放射能を低減する対策[1]の実施可能性を確認するための実験を、チョルノービリ立ち入り禁止区域で実施した。

チョルノービリ立ち入り禁止区域内の汚染された湖に生息する汚染された淡水魚を汚染度の低い「きれいな」湖に移す実験を行ったが、骨組織でも筋肉組織でも放射性ストロンチウム濃度の減少は観察されなかった。放射性ストロンチウムに関する他の研究結果も踏まえると、「きれいな」水に移すことによる放射性ストロンチウム濃度の低下は、魚が短期間の放射能汚染にさらされた場合にのみ有効であると考えられた。 調理処理に関する実験を行った結果、グルボコエ湖産の淡水魚テンチの骨組織からスープへ移行する90Srの食品加工保持係数[2]は0.01未満であることが示された。このことから、ストロンチウムの97%を保持する骨組織を含む魚体全体ではなく、魚肉のみに90Sr含有量の許容レベルを設定することが適切であると考えられた。

研究の意義

魚類の放射能汚染の低減化対策の解明は、原子力事故による水生環境への放射性核種の放出を想定した場合や、過去の原発事故からの復旧活動を行う上で、放射線防護上の重要な役割を果たす。

主要用語

[1] 対策(countermeasure)- 危険や脅威を打ち消すために取られる行動で、この場合は放射能汚染と放射線に対する対策を意味する。
[2] 食品加工保持率(Food processing retention factor, Fr)- 調理加工後に食品中に保持される放射性核種の放射能濃度の割合。

図表

論文情報

論文はエルゼビア社が発行する学術誌Journal of Environmental Radioactivityウェブサイトに2023年10月25日にオンライン公開されています。

雑誌名Journal of Environmental Radioactivity
論文タイトルTesting countermeasures to reduce 90Sr content in fish products
URLhttps://doi.org/10.1016/j.jenvrad.2023.107316
著者P. Pavlenko ab, S. Levchuk a, V. Yoschenko b, M. Hrechaniuk a, 和田敏裕 b, V. Kashparov ac

a Ukrainian Institute of Agricultural Radiology (UIAR) of National University of Life and Environment Sciences of Ukraine, Kyiv, Ukraine
b 福島大学環境放射能研究所、福島、日本
c Center for Environmental Radioactivity (CERAD), Faculty of Environmental Sciences and Natural Resource Management, Norwegian University of Life Sciences, Ås, Norway