母国に戻った後のキャリアに、大学院での学びを活かしたい
福島大学共生システム理工学研究科環境放射能学専攻に入学した理由を教えてください。
私はパプアニューギニアの出身で、現在はJICAのプログラムの奨学金を得て日本での研究を行っています。奨学金の話が決まった時、関心がある分野を研究している川越先生がいる福島大学への進学を考えました。というのも、私は水域環境の土木や水資源管理に従事していたバックグラウンドがあり、水質や自然環境への知識をもっと広げたいという気持ちがあったのです。実際に川越先生の話を伺いアドバイスを受ける中で、勧められるままに出席した環境放射能研究所のセミナーがとても印象的で、水文学を含む様々な分野の研究者が所属する環境放射能研究所で研究することに興味がわいてきました。
実は福島第一原子力発電所の事故によって周辺地域にまで放射能汚染が広がったというのはそこで初めて知りましたが、環境中の放射能の影響や放射性核種が水循環の解明に利用されていることについて学ぶことは、私の専門分野をさらに深めることにも繋がると考え入学を決めました。
研究内容と、その研究の面白さについて教えてください。
私の研究の目的は、土地利用と土地被覆のためのデータベースの構築にあります。環境中の水の動きを知る上で重要な役割を果たすもので、特に、
① 流域環境中の水分布の変化
② 雨季と乾季のような気候変化の中で起こる周期変化
この二つの要素を把握する必要があります。
このように、ある地域における水文学的特徴をはっきりと把握することができれば、流域環境にある土地を利用するため際のリスク、そしてそれらへの対応策を想定することができるという点で非常に有用なものになると考えています。
大学院生としてどのような毎日を過ごしていますか。
平日の10時から5時までは、授業やその準備、課題に取り掛かります。土曜日に野外授業がある場合には参加し、授業がない時には家族と過ごすことが多いですね。今、日本には妻と二人の子どもと暮らしているので、週末は家族と一緒に公園に出かけたり、地域のイベントに参加したり、または友達と過ごすこともあります。平日は講義の準備などが忙しいので、休日にはなるべくリフレッシュするようにしています。日曜日は教会の礼拝に参加します。
大学院での経験を将来どのように活かしたいと思いますか。
大学院での研究を通して得られる経験や知識は、私が母国に戻った後のキャリアにきっと役立つものになると思います。放射能汚染の影響のことを言えば、今後、パプアニューギニア政府が原子力発電について政策決定をする際にも役立てることができると思います。
自国では流域環境の調査や水資源管理の整備があまり進んでいないという問題があります。雨季と乾季の影響を大きく受ける地域であるため、洪水や干ばつのリスクについての情報提供を行うことができればと思っていますし、また現在でも7割から8割の家庭には、生活に必要な水を確保できる設備が整っていないという現状があるので、この状況を改善するための取り組みに、大学院での学びを活かしたいと思います。
最後に、受験を考えている方に、環境放射能学専攻の魅力を伝えてください。
この大学院には研究のための最新の設備と技術、素晴らしい環境が揃っていると思います。また、生態系・計測・モデリングといった環境放射能が含む多岐にわたる分野には、それぞれに素晴らしい優秀な教授陣がいらっしゃいます、放射能の影響について、多角的な理解のために様々な分野について学ぶことができるカリキュラムがあります。入学を検討しているみなさん、この分野には多くの新しい発見があり、国際社会において、原子力の利用やその将来を決定づけるための重要な学問ではないでしょうか。
インタビュー:2019年10月