令和4年2月13日(日)福島市内にて第17回研究活動懇談会を開催しました。
日時
令和4年2月13日(日)13:00~14:30
場所
福島市内 平石集会所
演題
阿武隈川における懸濁態 137Csの存在形態について
(山川喜輝:福島大学共生システム理工学類4年生)
森林と農地に由来する河川水137Csの季節変化
(木本美咲:福島大学共生システム理工学類4年生)
質疑応答(難波謙二 所長/教授)
環境放射能研究所による研究活動懇談会は、研究成果を地域に還元するために2016年より開催しております。第17回となる今回は「福島県における水田の代掻きによる河川への放射性セシウム流出の評価」と題して、福島大学共生システム理工学類難波研究室の4年生、山川喜輝さんと木本美咲さんが研究報告を行いました。山川さんは卒業研究として「阿武隈川における懸濁態 137Csの存在形態について」、また木本さんは「森林と農地に由来する河川水137Csの季節変化」というテーマで環境放射能研究所の教員(五十嵐特任助教ほか)の協力を得ながら取り組んできました。今回の懇談会では2人の卒業研究内容の一部を報告し、意見交換を行いました。なお、2人は2020年に下鳥渡地区で開催した研究活動懇談会で代掻きについて発表した森高祥太さんの後輩です。2021年に研究に協力いただいた平石地区の皆様10名と2020年にお世話になった下鳥渡地区の皆様4名にお集まりいただきました。
山川さんの発表では、2012年から福島市黒岩で定期的に実施してきた観測から、溶存態放射性セシウム濃度が長期的には減少傾向にある一方で、夏季に高く冬季に低下する季節変化を示すこと、とくに毎年5月に急激な上昇があることが説明されました。この5月の上昇が代掻きによる河川への137Csの流出である可能性があることから、2020年は下鳥渡地区での代掻きの水田内でどのような濁水が発生するのかを調査し、2021年は平石地区で水田に隣接する河川の水質が代掻き前後でどのように変わるかを調べた観測結果を報告しました。その結果から、代掻き中に発生する水田の濁り成分および137Cs濃度は、隣接する河川におよそ30倍に希釈された状態で流出していると考えられるとしました。
木本さんは代掻きの影響に加え、森林からの影響も把握するための研究を報告しました。杉田川上流にある流域が森林のみの観測点と、下流側にある流域に水田がある観測点とで、137Cs濃度や水質を比較しました。上流では河川水中の137Csの概ね80%以上が溶存態として存在している一方、下流では逆に懸濁態の割合が増えていました。ただし、同じ溶存態137Csを比べても下流の濃度は上流の濃度よりもどの季節でも高く、特に代掻きが行われていた日の下流観測点では、溶存態137Cs 濃度が上流の5-10倍の濃度となっていました。このことから、森林からの137Csの流出はあるものの下流への寄与は小さく、下流の河川水中の懸濁態・溶存態137Cs濃度に対してはともに代掻き時の水田からの寄与が大きいと考えられると報告しました。
発表後の質疑応答では難波所長も加わりました。ご参加いただいた皆様からは、「河川の放射性セシウム濃度は安全性に問題がある濃度なのか?」「放射性セシウムは土壌にしっかり吸着されるはずなのでは?」「水田に存在する放射性セシウムのどの程度の割合が流出しているのか」「上流にあるため池では放射性セシウムはどうなっているのか」など、多くの質問やご意見をいただきました。「観測された最大の溶存態137Cs 濃度でも 0.02 Bq/L であり、安全性に問題がある濃度では無い」「放射性セシウムがあることで見える、水田を中心としたカリウムなどの物質の動きがなにかヒントになるとよいと考えている」などの回答をしました。今回いただいた貴重なご質問ご意見を参考に、IERでの研究に活かしていきたいと考えております。
(注)福島県では2012年から田植え前にゼオライトやカリウム施肥を実施し、稲の放射性セシウム吸収を防止する対策が実施され、県内収穫された玄米を全て測定する全袋検査が継続されました。2015年以降は放射性セシウム基準値超が0件であり、5年間にわたって基準値超え0件が継続したことから、2020年からは収穫された玄米はサンプル検査として実施されています。