プロジェクト概要
本研究は、チェルノブイリ立入禁止区域で、福島で得た環境放射能に関する科学的知見を活用し、当区域内での環境管理技術および法的体制の確立に貢献することを目的とする、平成29年4月から5年間のプロジェクトです。
現在、当区域では、冷却水供給池の水位低下、立入禁止区域の再編および汚染森林の火災に関連したモニタリングと予測の強化が課題になっています。これらの分野の研究に基づき、周辺地域の住環境等への影響観測も含めた、当区域内の利活用必要な環境管理技術強化の支援を行います。また、日ウクライナにおける環境放射能分野の人材育成も行います。
①クーリングポンド水位低下にともなう環境変化の把握と予測
原子力発電所への冷却水供給源として設置されたクーリングポンドには、事故により大量の放射性物質が流入・蓄積しました。放射性物質の再移動を抑制するため、プリピャチ川の水をポンプで汲み上げ、水位を維持していましたが、2014年に廃炉措置の一環としてポンプが停止され、クーリングポンドの水位は低下を続けています。この水位低下による環境変化や放射性物質の動態への影響を明らかにすることが求められています。②新しいゾーニング設定のためのモニタリング手法確立とモデルに基づく影響予測
原発事故から30年以上が経過し、立入禁止区域の放射線量は低下しつつあります。ウクライナ政府は廃棄物処理施設の設置や指定保護地区の設定など、立入禁止区域の再編を計画しています。こうした立入禁止区域内における活動を安全かつ適切に行っていくため、区域内における放射性物質の存在量や移行状況を把握することが課題です。③広域的モニタリング・モデリングに基づく環境影響評価手法の確立
立入禁止区域内での森林火災や廃炉作業等にともなう放射性物質の再拡散が懸念されています。チェルノブイリ原発の100 km南方にあるキエフには約290万人が生活しています。住民の安全を担保するためには放射性物質の再飛散を常時監視する体制の維持・強化が必要です。④環境管理および放射線防護に関する提言
課題①②③に関連する研究の成果を整理・統合するとともにウクライナの関係機関と協力し、環境管理および放射線防護に関する提言を行います。また、セミナー等を通じて、福島とチェルノブイリにおける環境放射能に関する情勢や取り組みについての情報共有を促進します。
研究背景
チェルノブイリ原発のクーリングポンド(CP)の環境変化が研究の背景にあります。CPはチェルノブイリ原発の1-4号機に冷却水を供給する池としてつくられ、2000年に全ての炉が停止したあとも、プリピヤチ川からのポンプアップを停止した2014年から水位低下が始まっており、元の10km×2kmほどの大きな池が小さな池、湿地と乾燥した土地とに変わってきています。もともとCPにはプランクトン、二枚貝類および魚類など多様な淡水の水生生物生息しており、事故で放出された放射性核種がこれら生物への移行が調べられて来ており、季節的に起きる放射能濃度の変化等が明らかにされています。
水位低下後には、底質の乾燥化と大気中の酸素との反応により、底質に存在した放射性核種の形態変化が起きていることが推測されます。また周辺環境の変化や水質の変化により、従来の生物移行とは異なる過程が進行しつつあると考えられます。また、乾燥化で出現した陸地には植生が発達しつつあり、新たな生態系が出現しています。このような場所には今後、小型の哺乳類が生息し始めると予想されます。また、底質の放射性物質は CPの陸化・乾燥化に伴って再浮遊し、大気エアロゾルとして長距離輸送される可能性もあります。
現在のCPには他では見られないような、化学、生物学、気象学的な研究課題が存在しているのです。
研究者一覧
Name | Univ. | Reserch Field |
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難波 謙二 Kenji NANBA |
福島大学 Fukushima Univ. |
生態学 環境微生物学 Ecology, Environmental microbiology |
恩田 裕一 Yuichi ONDA |
筑波大学 Univ. of Tsukuba |
水文学 Hydrogeomorphology |
ジェレズニヤク マーク Mark ZHELEZNYAK |
福島大学 Fukushima Univ. |
環境モデリング Environmental Modeling |
坂口 綾 Aya SAKAGUCHI |
筑波大学 Univ. of Tsukuba |
放射化学 Radiochemistry |
塚田 祥文 Hirofumi TSUKADA |
福島大学 Fukushima Univ. |
環境放射能学 Env. Radioecology |
柴崎 直明 Naoaki SHIBASAKI |
福島大学 Fukushima Univ. |
地下水水文学 Groundwater hydrology |
コノプリョフ アレクセイ Alexei KONOPLEV |
福島大学 Fukushima Univ. |
環境化学 放射化学 Environmental chemistry, Radiochemistry |
ヨシェンコ ヴァシル Vasyl IOSHCHENKO |
福島大学 Fukushima Univ. |
森林放射生態学 Forest radioecology |
イスマイル モハマド モフィズル ラハマン Ismail Md. Mofizur RAHMAN |
福島大学 Fukushima Univ. |
放射化学 環境修復 Radiochemistry, Environmental remediation |
和田 敏裕 Toshihiro WADA |
福島大学 Fukushima Univ. |
水圏放射生態学 Aquatic radioecology |
平尾 茂一 Shigekazu HIRAO |
福島大学 Fukushima Univ. |
環境放射能学 Env. Radioecology |
脇山 義史 Yoshifumi WAKIYAMA |
福島大学 Fukushima Univ. |
水文地形学 Hydrogeomorphology |
石庭 寛子 Hiroko ISHINIWA |
福島大学 Fukushima Univ. |
分子生態学 生態毒性学 Molecular Ecology, Ecotoxicology |
五十嵐 康記 Yasunori IGARASHI |
福島大学 Fukushima Univ. |
森林水文学 Forest hydrology |
加藤 弘亮 Hiroaki KATO |
筑波大学 Univ. of Tsukuba |
森林水文学、環境放射能学 Forest hydrology, environmental radioactivity |
高橋 純子 Junko TAKAHASHI |
筑波大学 Univ. of Tsukuba |
土壌環境化学 Soil Env. Chemistry |
山崎 信哉 Shinya YAMASAKI |
筑波大学 Univ. of Tsukuba |
放射化学 Radiochemistry |
反町 篤行 Atsuyuki SORIMACHI |
福島県立医科大学 Fukushima Medical Univ. |
環境モニタリング Environment monitoring |
佐藤 ひかる Hikaru SATO |
福島大学 Fukushima Univ. |
地下水水文学 Groundwater hydrology |
金指 努 Tsutomu KANESASHI |
福島大学 Fukushima Univ. |
森林生態学 Forest science |
研究組織図
① | クーリングポンド水位低下にともなう環境変化の把握と予測 Evaluation and prediction of environmental change due to the Chernobyl Cooling Pond drawdown |
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1-1 | ポンド内の水および堆積物の汚染状況を把握する Understanding contaminants in water and sediments of cooling pond |
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1-2 | 地下水系を把握する Understanding groundwater system influenced by CP |
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1-3 | 水圏、水辺の生物中放射性物質濃度把握する Understanding contamination of wildlife (in and around the pond) |
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1-4 | ポンド内の放射性核種の移行・挙動を予測する Prediction of radionnuclide migraton/behavior in the pond |
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1-5 | 地下水系の変化を予測する Prediction of groundwater systems influenced by CP |
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1-6 | 水圏と水辺の生態系への影響を評価する Evaluation/prediction the effect for wildlife(in and around the pond) |
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1-7 | 天然試料の継続的なサンプリングと分析を行う Continuous sampling/monitoring for the environmental samples |
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② | 新しいゾーニング設定のためのモニタリング手法確立とモデルに基づく影響予測 Evaluation of radionuclide dynamics for re-zoning of ChEZ by establishing monitoring and modelling methodology |
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2-1 | 放射性物質の土壌中の側方・下方移行特性と初期降下量および土地利用の関連について定量化する Evaluation of vertical and lateral migration of radionuclides |
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2-2 | 河川・湖沼における放射性物質の移行量をモニタリングし、モデリングを行う Monitoring and modelling on River system |
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2-3 | 森林生態系における放射性物質の存在量を定量化する Monitoring and modelling of forest |
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③ | 広域的モニタリング・モデリングに基づく環境影響評価手法の確立 Atmospheric environmental assessment are made through ground-based monitoring and computer-based modelings of airborne radioactive aerosols |
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3-1 | 立入禁止区域内におけるモニタリングシステムの構築およびモニタリングデータベース作成により放射性エアロゾルの起源を特定する Identificaion of sources of radioactive aerosols by constructing a monitoring system in ChEZ nad by archiving the acquired data |
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3-2 | キエフ市内におけるモニタリングシステムの構築およびモニタリングデータベース作成により放射性エアロゾルの時間変化およびその原因を特定する Identification of causes of temporal variations of radioactive aerosols by constructing a monitoring systemoutside of ChEZ and by archiving the acquinred data |
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3-3 | 大気拡散モデルを構築し、大気環境における放射性エアロゾルの影響を評価・検証する Construction of an atmospheric model for radioactive aerosols and evaluation of the effects of radioactive aerosols on atmospheric environment |
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④ | 環境管理および放射線防護に関する提言 Preparaion of proposal for environmental remediation and radiological protection |
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4-1 | ウクライナ政府関係者への下記提案書の提出 (1)福島の避難区域 (2)福島における環境修復技術 (3)立入禁止区域のゾーニングに関連する研究結果 (4)環境修復に関する規制文書に対する推奨事項 Submitting the reports and proposals to the Ukrainian authorities (1)the management of the Fukushima Daiichi Exclusion zone (2)the environmental remediation technologies used in the zones of the Fukushima Daiichi accidental fallout (3)the results of the assessment of the contemporary radiological status of the different parts of Chernobyl Exclusion Zone(ChEZ), and recommendations for new zoning of the ChEZ on the basis of the dose/risk assessments (4)the recommendations for regulatory documents in Ukraine on the environmental remediation at the sites on heavy pollution |
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4-2 | ウクライナ政府機関・研究機関関係者の福島での見学・セミナーなどを開催する Hosting Fukushima tour and seminar for Ukrainian authorities and specialists |
相手国機関
- 環境・天然資源省立入禁止区域管理庁(SAUEZM)
- 国営特殊企業エコセンター(ECOCENTRE)
- チェルノブイリ環境放射能生物圏保護区(ChREBR)
- チェルノブイリ原子力安全センター(CCNSRWMR)
- ウクライナ国家原子力規制監督局(SNRIU)
- ウクライナ国立原子力放射線安全科学技術センター(SSTCNRS)
- 中央地球物理観測所(CGO)
- ウクライナ国立戦略研究機構(NISS)
- ウクライナ農業放射線研究所(UIAR)
- ウクライナ放射線防護研究所(IRP)
- ウクライナ国立科学アカデミー(NASU)
- ウクライナ水文気象学研究所(UHMI)
- 数理機器・数理システム研究所(IMMSP)
- 原子力発電所安全規制機構(ISPNPP)
- 水生生物学研究所(IHB)
- 地質学研究所(IGS)